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持続可能でレジリエントな加工・流通の未来

気象災害の甚大化をはじめ、コロナ禍やウクライナ侵攻等で顕になった現代の加工・流通の課題と古くて新しい解「提携・CSA

コロナ禍によって、加工・流通のいたるところに滞りが生じ、私たちの食の加工・流通過程における脆弱性・危険性が顕に

もし再び新たな感染症によるパンデミックが生じれば同様の状況に陥ることは明白であり、これはなかなか避けて通れない問題であることも明らかだと言えるでしょう。

新型コロナウイルス感染症のパンデミック時においては、物流に関わる企業や行政の尽力もあり、人々の手元に食品や物資が届けられ続け、エッセンシャルワークの一つとして機能し続けました。伴って、飲食業界が縮小したことの影響もあり、生協や食べチョク、ポケットマルシェ(以下、ポケマル)など、生産者の顔が見えるEC系の流通が大きく成長しました。

複数の加工・流通過程を介さず、生産者から消費者にダイレクトに近い形で農産物や食品が届くことが新型コロナウイルス感染症の様なパンデミック下において有効であることが明らかとなったわけです。

1971年から始まった有機農業運動に伴い広がってきた「提携」は生産者とそれを支援する消費者が絆を結んで支え合う仕組みで、これが米国をはじめとした海外諸国にもひろがり「CSA」へと発展し、さらに世界中に広がっています。

日本でも2011311日の東日本大震災でスーパーマーケットから食品が消えた際に、提携で生産者と絆を結んでいた消費者は、食への不安をもつことなく過ごすことができたという話は多く聞かれます。

CSACommunity Supported Agriculture(地域支援型農業)

この流れからも、生産者と消費者が比較的ダイレクトにつながることができる加工・流通の仕組みは改めて重要視される様になり、併せて、食材の生産背景や生産方法ならびに生産者の取り組みなどにも消費者の意識が向くようになってきました。

 

人気が伸びる「産地直送ECサイト」。国内トップ2社、社長インタビュー

全国の生産者から直接新鮮な食材が購入できる「産直ECサイト」はオンラインマルシェとも呼ばれ、登録者数が急増中。人気代表格である「食べチョク」「ポケットマルシェ」の代表者のお二方それぞれに、お話を伺いました。


01|食べチョク代表 秋元里奈さん「生産者のこだわりが正当に評価される世界を目指す」

食べチョク https://www.tabechoku.com/

 

コロナ禍により大きな苦境に立たされた全国の生産者を支援するべく、早期に生産者への応援消費を促す支援プログラムなどを開始した食べチョク。8000軒以上の生産者と約80万人の消費者が利用する認知度・利用率がNo.1の国内最大の産直ECサイト。

——秋元さんのメディア露出もたくさんお見かけします。ご反響やコロナ前後における変化など、教えてください

秋元 生産者の実態をストレートに伝えることによって、「困っている生産者を応援したい」という意識が消費者に芽生え「価格や産地だけで選ぶのではなく、対人として生産者の応援につなげる」といった行動変容につながったと思います。「応援消費」という言葉も生まれたように、それまではコモデティ化していた食材購入が、「生産者から直接購入することで、持続可能な一次産業に貢献する」というアクションに。そういった方が増えたことが大きな変化だと思っています。

 

「地方に眠る魅力との出会いを増やしていきたい」

食べチョクを通じ、一般的なスーパーには並ばない珍しい食材との出会いや、生産者からおすすめの食べ方を教えてもらうなど、ただ美味しさを味わうだけではない体験により、食卓での話題が増えたという声も多いそう。

SNSのように消費者と生産者のコミュニケーション機能があり、生産者と消費者が直接やりとりすることができるのもサービスの特徴の一つ。

「美味しさを知ることで食材のファンになり、生産背景やこだわりを知ることで、
生産者
()に対してのファンも生まれています。」

「購入後にお礼を伝えたくなった」という声も多く、「この人が作るなら、きっと他の食材も美味しいだろう」と、単発購入からリピーターにつながり、定期購入者=生産者のファンが増えていくそう。

そうしたファンを生産者の「お得意さま」に認定し、限定商品が購入できたり生産者から感謝のメッセージを受け取ることができたり、生産者と消費者がより深い関係性を築くことができる仕組み作りも行っている。

ファン同士の交流も日々行われており、常連ユーザーのコメントでのやりとりを見た人から新規購入につながるといったケースも多いのだとか。

——ユーザー年齢層の変化はいかがでしょうか?

秋元 コロナ以前は子育て中の方の利用者が多い傾向でした。コロナ以降、初めてEC購入をする方からの購入も増えました。中には食べチョクを愛用いただいている娘さんからおすすめされて使い始めたり、家族や友人間で贈り合うギフトとしての利用も多いんです。

家庭内での楽しみから、二世代間やお友達にもシェアが自発的に広がる。まさに「美味しさの連鎖」を呼んでいますね。

 


02|ポケットマルシェ 代表高橋博之さん「都市と地方をかきまぜる」

ポケットマルシェ https://poke-m.com/

コロナ禍による生活環境の変化から、ユーザー数、そして注文数も増えたというポケマル。会員数は60万人突破へ。

——「食べる通信」から始まり、ポケマル創設へ。そしてコロナ禍変化を教えてください

高橋 現代社会は、「飽食の時代」「情報化社会」が加速し、都市生活者の時短の象徴=「食」だと思っています。物や情報は溢れているが、情緒的関係に飢え「孤独」を生んでいる。コロナ禍により様々な生活制限を強いられる中で国民が得たのは「時間」。「手間」と「時間」をかけ、産直ECを利用し食材を買い求める人が右肩上がりに増えていきました

オンラインプラットフォーム上でありながら、ポケマルというプラットフォームを通じ、生産者(地方)と消費者(都市)が直接繋がることができる。生産背景を学び、食のありがたみを知る。

「ポケまるはエモい!と言われます」一次産業のファンベースマーケティング

高橋 「推し生産者」ができて、ユーザー同士のコミュニケーションも生まれ、交流を重ねるごとに関係性が育まれていく。関係性が育まれると、消費の意味が変わってくる。お金を払うことが生産者への「応援」となり、「感謝の気持ち」を伝える手段になると思います。

「顔が見えない不特定多数の市場」では、大量生産型に偏り価格競争が加速、大企業でなければ生き残っていけない。それに対しポケマルは「相対」の関係で、「顔が見える特定多数」の人がつながっていく。お互いが支え合い、学び合い、そこに信頼関係と安定性が生まれるマーケットなんです。

「日本のスーパーの野菜売り場はイケメン芸能人ばかり」欧米との差

高橋 ヨーロッパではオーガニックを選ぶ理由は「環境のため」、日本では「健康のため」という傾向が強い。その意識の差が大きいと思っていて、日本でのオーガニックはファション的要素が強く、価格に対しても「高い」という理由から購入に至らない。それは、有機か慣行か?といった農法を議論する以前に、消費と生産の場が離れすぎている

たとえ農薬や化学肥料を使っても、決して農業は簡単ではないんです。そういった生産現場を知れば、いかに有機や無農薬で生産することが大変か理解ができるはず。自然に翻弄されながら一生懸命食べ物を作る生産者の難しさと素晴らしさを知ることで、ようやくオーガニックは広がると思うんです。

——消費者と直接つながることで、生産者側にも変化や学びがあったそうですね

高橋 ポケマルで初めて直販にトライした生産者が、「リピートユーザーができ農薬の使用量を減らすようになった」と言い始めたんです。「自分が作った野菜を食べる人の顔が見える」ことにより、生産者の農法を変えていくんです。

「食事」は誰もが毎日2−3回行うこと。自分たちの生存生活が何によって成り立っているのか?もっと都市と地方がつながり、関わりを持つことが生きる喜びにつながるのだと思います。

地球温暖化対策が経済性にもプラスになった世界最大の流通企業ウォルマート

甚大化するハリケーンの影響で店舗だけでなく顧客や従業員たちにも大きな被害を被った世界最大の流通企業ウォルマート。地球温暖化対策に本格的に取り組んだ結果、経済性も含めてプラスに転じた成功体験を持つ。

店舗の屋根・屋上にソーラーパネルを展開し自家用電力発電に取り組んだり、5000人以上いるトラックドライバーにエコドライブ研修を実施し、エコドライブを実践した結果、1000億円以上のプラス効果をもたらしたという。

さらにウォルマート店頭ではオーガニックコーナーが展開されるようになり、オーガニック農産物や食品等の普及にも貢献している。

これからの消費者の指向を先取りするならオーガニック

日本においても学校教育でのサステナビリティ教育の導入が進み、子どもからその親までのサステナビリティ・オーガニックへの意識が年々高まっています。ビジネスにおいても、取引先となる大企業もESG投資の波をうけ調達段階からサステナビリティ性もが重要視される様になるなど、着実にオーガニック食材・食品のニーズは加速しています。

加工・流通もこの成長トレンドをいち早くキャッチして、新しい市場の創出に取り組む好機と言えるのではないでしょうか。

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Profile

秋元里奈

食べチョク 代表
(株式会社ビビットガーデン)

神奈川県相模原市の野菜農家に生まれる。 慶應義塾大学を卒業後、2013年にDeNAへ新卒入社し、新規事業の立ち上げやスマートフォンアプリのマーケティング責任者などを経験。 2016年11月に一次産業分野の課題に直面し株式会社ビビッドガーデンを創業。2017年8月にこだわり生産者が集うオンライン直売所「食べチョク」を正式リリース。リリース3年で認知度/利用率No.1の産直通販サイトに成長。

高橋博之

ポケットマルシェ 代表
(株式会社雨風太陽 代表取締役CEO)

1974年岩手県花巻市生まれ。岩手県議会議員を2期務め、2011年の県知事選挙に立候補。沿岸部の被災地270キロを徒歩で遊説する前代未聞の選挙戦を展開した。その後、事業家へ転身。“世なおしは、食なおし。”のコンセプトのもと、2013年にNPO法人東北開墾を立上げ日本初の食べ物つき情報誌『東北食べる通信』を創刊。2014年「日本食べるリーグ」を創設。2016年、生産者と消費者を直接つなぐスマホアプリ「ポケットマルシェ」を創業。2022年、株式会社ポットマルシェは株式会社雨風太陽に名称変更。